「斜め45°」。なんだか記憶に残る言葉である。
「斜め45°」という言葉の、なんともいえないこの響き。30°でも90°でもいけないんである。45°がいいのだ。
「斜め」という言葉がもたらすちょっとした不安定感を、「よんじゅうごど」という単語に含まれる、オノマトペでいうBGDZ系の音が与える力強さが見事にカバーしている。さらに「よんじゅうごど」という単語の、「ご」で上がって「ど」で下がるリズム感も合わさって、まるで呪文のよう。
参考図書:怪獣の名前はなぜガギグゲゴなのか
似た表現に「斜め上」というのがあって、これはネット上で生まれたスラングなのだが、「想定の範囲外」の意味合いで使われることが多い。このイメージから「斜め」という単語自体に「ちょっとズレている」感があるのだが、
「斜め」という言葉はもともとは「なのめ」から来ていて、その意味を辞書で調べると
なのめ 【斜め】
(形動ナリ)
〔「ななめ」と同源〕
① 傾斜しているさま。傾いているさま。ななめ。
② 目立たないさま。平凡なさま。普通。「わが為にも人のもどきあるまじく―にてこそよからめ」〈源氏物語•浮舟〉
③ いいかげんなさま。おろそかにするさま。「世を―に書き流したることばのにくきこそ」〈枕草子•262〉
④ (「なのめならず」と同義で用いて)格別なさま。「あるじ―に喜びて」〈御伽草子・文正草紙〉
引用元:スーパー大辞林 / Super Daijirin Japanese Dictionary Copyright © 2010, 2013 Sanseido Co., Ltd., under licence to Oxford University Press. All rights reserved.
と、意外にも「② 目立たないさま。平凡なさま。普通」とあるのである。斜めって普通なのだ。ズレてなーい。
どうやら、④にあるように、普通の否定として使われてきた「なのめならず」が、時代とともに用途がだんだん変化していって、「斜め」という言葉になり、「なのめならず」という意味も吸収されていったようだ。
そこでふと思いついて「斜め45°」をネットで検索すると、いやー、出てくるわ出てくるわ。
みんな好きなのね、「斜め45°」。
一番多かったのが写真ネタだ。どうも斜め45°というのは、自撮り愛好家たちにとってのベストポジションであるらしい。
そういえば、俗にいう「モデル立ち」も片脚を前に出して45°身体をずらすスタイルだったなと思い出す。引用するの飽きてきたので省略するけれど、探すと猫も料理もみんな45°で撮れって出てくる。
それもそのはず。自撮りに限らず、どうやら写真を撮るときの鉄板法則らしい。光の45度を意識すると、柔らかい、ふんわりした印象の写真が撮れるんだそうだ。ほほう。
同じ写真でも少々毛色が異なるが、斜め45°を愛するこんな人もいる。
これ、ちょっと「先にやられちゃったなあ」感アリ。うん、分かるよ。
顔の左半分には本音があらわれる
しかしいったいなぜ「斜め45°」はここまで人々を魅了するのか。
その答えは脳科学にありました。
『人間の神経は左右が入れ替わって脳とつながるため、顔の左側は脳の右側と関係が深いのですが、この部分は感情を司る働きをしています。そのため、顔の左側には本音が現れやすく、人間味が伝わり魅力的に感じるのです。反対に顔の右側は論理的思考力を司る左側の脳と関係が深いため、冷たい人柄に受け止められてしまいます。また、真正面から顔を見ると、脳は敵対する本能が刺激を受けるため、嫌いな人だと認識しやすいのです。ですから写真を撮影するなら、顔の左斜めの角度がベストだということです。』
真正面のアングルは無意識に闘争本能を刺激するので、敵と認知されてしまう危険性がある。つまり、斜め45°というのは防衛本能の現れだったのだ。加えて、顔の左側は右脳に、右側は左脳に影響されるため、右側と左側ではそれぞれ人に与える印象が変わってしまう。
戦いを挑むなら相手の視界の真正面へ。
好いてもらいたいならちょっとだけ右を向く(左を見せる)。
逆に嫌ってもらいたいなら左を向いて顔の右側を見せるとよい。
これ、交渉とか面談とか、意外と使えるテクニックかも。
あなたはパートナーの顔のいつもどちら側をよく見てますか? 右側を見ていることが多ければ、意識して左側を見るようにすると関係が変わってくるかもだ。
そういえば猫(動物)に触るときなでるのも真正面から手を出したら警戒されるから横からにしなさいと聞いたことがある。横からの方が視界に入らずびっくりされそうだが、あれはそういうことだったのか。納得。
よくよく思い出すと、岩合さんの「世界ネコ歩き」で猫を見つけてズームアップしていくときって、大抵斜め45°から近づいてるよな。なるほどなあ。
ということは、逆に言うと、ひょっとして免許証とかの証明写真がなんか犯罪者っぽく印象マイナスで見えてしまうのは、アングルが真正面から撮ったものだからじゃなかろうか?
その点、最近の履歴書写真はスゴイ。実物に会ったら「アンタ誰?」ってなるときがある(笑)。履歴書にいつまで写真貼らせるんだってギモンはまあ置いといて。
なんかね、もういっそすべてが斜め45度から見えるメガネでも作ったら世の中平和になるんじゃないですかね。テレビにも「斜め45°」ボタンつければいいと思う。もちろんリモコンの斜め45度上あたりに、45度に傾けて。
iPhoneのカメラにLive Photoという一瞬だけ動く写真が撮れる機能があるじゃないっすか。猫の写真を表示した瞬間に、例えば尻尾がパタパタ動いていたりすると、「はわわ〜」ってなるんですけども。まあ逆に動くのが気味ワルイ写真になることもあるんですけども。
アレと同じように、VRの技術を使って、撮った写真を自動で45°の角度に向かせて保存してくれる機能もつけたら面白そうだ。どの角度が一番綺麗に見えるかをAIが判断して保存する、ベストショット機能。うん、これ、女性に重宝がられること間違いナシ!! いかがですかね、Appleさん。
あのGoogle先生も、3Dの航空写真は斜め45°上空から(近づきすぎると真正面になっちゃうけど)。
世の中は斜め45°で溢れている。